Cross talk

vol.02

  • アーティスト 高橋理子
  • 株式会社ノットコーポレーション
    代表取締役CEO
    河内道生

第2回目の対談は、アーティストとして活躍されている高橋理子さん。
専門のフィールドはもちろん、knot Rとの共通項でもある空間演出や街づくりに至るまで、ノットコーポレーション代表の河内と興味深い話をしていただきました。

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Profile

アーティスト 高橋理子

HIROCOLEDGE(ヒロコレッジ)

1977年生まれ。東京藝術大学大学院博士課程染織研究領域修了。博士号(美術)を取得。円と直線のみで表現される図柄が特徴的。05年、仏外務省の招きでパリにて活動。また06年には、表現活動の一環として、自身のプロダクトブランド「HIROCOLEDGE(ヒロコレッジ)」を設立。活動は、工芸、ファッション、アートなど、幅広いジャンルの垣根を越え、日本の伝統に進化をくわえた作品を生み出している。

チャレンジ精神なくして、
ものを作る仕事はできない。

河内

理子(ひろこ)さんとは共通の知人を通じて知り合い、さっそくこのアトリエのインテリア関連の仕事を、knot Rで手がけさせていただきました。

高橋

このスペースがまだ白い箱の状態だったとき、壁面に大きな柄を描きたいと思いました。
それもペインティングやインクジェットプリントではなくて、どうしてもカッティングシートでやりたかった。
単に描いたのとは異なり、わずかながらもシートの厚みが生み出す凹凸がほしかったのです。
社長と知り合うことができ、今までやりたいと思いながらもできなかった表現が可能になったことが本当に嬉しかったです。

河内

理子さんの柄を初めて見たとき、これまで出会ったことのないオリジナルな魅力を感じました。
どこにでもある円と直線だけで構成されているのにもかかわらず、未だかつて、見たこともない柄でしたから。同時に、これは職人泣かせだなとも思いました(笑)。
とにかく、デザインが緻密で細かく、幾何学模様なので融通がきかない。
そして、たくさんの孔を開けなければならないので、それに見合った高度な技術がいる。しかも時間がない。けれども、お話をきいてすぐに「難しいけれどおもしろそうな仕事なので、ぜひやってみたい」という意欲が湧きあがってきました。

高橋

そうした仕事に対する前向きな姿勢も、knotさんにお願いした大きな理由です。仕事柄、多くの方と関わりながらもの作りをしていますが、例えば職人さんが私のデザインに対して「これなら、今までのやり方で簡単にできる」というときは、デザインをやり直すこともあります。
これほどものが溢れている世の中に、再び同じようなものを生み出す必要はないと思っています。職人さんと私が、一緒になって一歩でも前進できるようなデザインを心がけてます。

河内

だからこそ、唯一無二のものが生まれていくわけですね。
ものを作る仕事をしていく上で、挑戦する心というのは何よりも大切なものだと思います。

高橋

私は東京藝大の工芸科で、専門の染織以外に陶芸や漆、金工など、さまざまなもの作りを学んだのですが、その時の経験が、今とても生きていると感じています。
職人さんに無理難題を押しつけることなく、できるかできないかという、ギリギリのラインで少しだけ挑戦してもらえるようなデザインをする。

楽しく思い通りのもの作りをするためには、職人さんとのコミュニケーションも不可欠なのですが、常に感じていることは、ひとりでは何もできないということです。私にとってとても大切な職人さんの存在やその素晴らしい技術をいかに伝えていくかということも、私の活動の一部です。

本当に必要なものを、
再確認していくことが求められる。

河内

3月11日に起こった東日本大震災は、まさに未曾有の巨大地震であり、東北地方や北関東の太平洋沿岸部を中心に大きな被害をもたらしました。

高橋

本当にこの巨大地震と津波による被害は、想像を絶するものがありました。
私は、地震発生時、このアトリエにいて何事もありませんでしたが、あの大きな揺れを体感したことで、少なからず精神的なダメージはありました。
今は、被災地に向けて何ができるだろうかと考える毎日です。

河内

私どもの業界でも、震災後は自粛ムードが漂っています。現場が止まってしまったり、オープンするはずの店舗数が減ってしまったりしている状況が続きました。
理子さんの方ではお仕事に関して、何か直接的な影響などはあったのでしょうか?

高橋

東北は伝統産業の多い地域です。織物工場や縫製工場など、繊維関係の会社もたくさんあります。
私は震災前に山形のプリント工場さんとスカーフの生産準備をしていたのですが、震災直後は物流のインフラが麻痺し、例えば色見本のやりとりにも影響がありました。

河内

そうですか。
私たちのお客さまは飲食業界の方々も多いのですが、やはり新たな出店は控えるといった傾向にあります。しかし、いつまでもこうした状況が続いていたのでは、日本の経済を回していくことはできません。個人個人が、必要なものを消費していくことが重要だと考えます。
本当に必要なものを再確認していくことが、今後は大切になってくるのではないでしょうか。

高橋

私も同じようなことを考えていました。
私が常に意識しているのは、人と人とのつながり、コミュニケーションです。これは、震災前も後もまったく変わりありませんが、これまでの人と人という小さな範囲から、地域と地域、産地と産地というような広い範囲でのつながりを、もの作りを通して生み出していけたらと思っています。
自分ができる範囲で、活動を続けていこうと考えています。

空間づくりにとって、
魅力あるデザインは不可欠な存在

河内

私たちknot Rでは、ビルやマンションなどのリニューアル提案=リモデルを行っています。
そうした空間づくりを行っていく際、やはりデザインの力というのは不可欠な存在となります。
たとえば飲食店の場合なら、その店を訪れる人たちを想像した上で必要なデザインを施していく。すると、実際にオープン後には、想い描いていたような人たちが集まってくるのです。

もちろん、すべてがスムーズに行くわけではありませんが、完成後に建物のオーナーに「いい空間ができあがった」と喜んでいただくことが、私たちに大きな満足感をもたらします。そういうときに「心の底からつくり手でよかった」ということを実感しています。

高橋

私の活動は、世の中に存在する固定観念や偏見を打ち破るようなきっかけを生み出すことです。伝統的なものと今の時代だからこそ生み出せる図柄を組み合わせることで、新鮮な驚きや、固定観念の壁をすっと飛び越えるきっかけを与えることができます。

ゼロからすべて生み出すことだけがデザインではなく、身の回りにあるものを少し違った視点で組み合わせることで新たな発見や前進へのきっかけが生まれます。そのバランスをとることもデザインなのだと思います。

河内

なるほど、すごくよく分かります。最初に話した理子さんのアトリエの壁の話に戻りますが、以前だったら白い壁に塗料で描くことしか方法はなかったわけです。
それがいまならカッティングシートを貼るという選択肢が出てきた。もっと時代が進化したら、もっと効率的に高度な処理ができるようになるかも知れない。まさに最新技術を活用したリノベーションですよね。

高橋

染色の世界でも、技術の進歩は目覚ましいものがありますが、その技術を手仕事の効率化のためだけに使うのではなく、その技術にあった図柄を生み出すことで、その技術の価値や存在意義を明確にできます。
手仕事でできることと最新技術でできることをしっかりと意識してもの作りをすることが、たくさんのものが混在するこの時代に求められていることだと思います。

河内

だからこそ、唯一無二のものが生まれていくわけですね。
ものを作る仕事をしていく上で、挑戦する心というのは何よりも大切なものだと思います。

優れたデザインからは、
コミュニケーションが生まれる。

河内

理子さんの生み出すグラフィックが建築空間にもたらす影響は、ものすごく高いのではないかと私は考えています。
この独自の柄が入ることによってデザイン性が一気に高まり、考え抜かれた壁になる。デザインがなければ、ただの壁のままです。
私たちは一貫して空間を扱う仕事をしているわけですが、今後作品を通してこんなことやってみたいという抱負や希望はありますか。

高橋

これまでも、"衣食住"を意識して活動してきましたが、最近では、建物の内装や外壁に私の柄を入れたいというお話をいただき、ずいぶんと作品の規模が大きくなってきました。
個人で使うものとは違い、多くの人の目に触れる作品は、コミュニケーションを生み出すきっかけになります。
今後は作り手側のコミュニケーションだけではなく、多くの人とつながるきっかけになるような、もっと大きな、例えば公園や街を作るということも手がけてみたいと考えています。

河内

それはおもしろいですね。
想像しただけでも楽しくなってきます。街のなかに理子さんのデザインが広がっていくわけですよね。

なんと言うか、素敵な柄やデザインがあると、それについていろんな話ができますよね。つまり、そこにはコミュニケーションが生まれる。柄とか装飾を贅沢品だと決めつける人がいますが、けっしてそうではないと思います。素敵な柄に、たとえば機能性も付加されれば、さらに画期的で魅力的なものになっていくと思います。

高橋

装飾的な柄は、機能として必要がないという場合が多くありますが、日本の伝統技術の中には、装飾を施すための技法がたくさんあります。
暮らしを豊かに彩る柄と、それを表現する高度な技は、密接な関係を持ち、影響し合いながら発展してきました。その高い美意識が、日本のもの作りを支えてきたとも言えるのではないでしょうか。
私の図柄も、過去から引き継がれてきた技術や、これから生み出される技術の発展に影響を与えられるように、さまざまな挑戦を続けて行きたいと思っています。

河内

柄と技術の結びつき、その関係性は非常に重要なことですね。私たちのknotという社名ですが、「絆、結び目」という意味です。
空間づくりは、けっして一人ではきません。多くの人たちの協力によってつくり上げていく、そんな意味を込めています。今後、機会がありましたら、ぜひご一緒にコラボレーションができればと考えています。

高橋

こちらこそ楽しみにしております。そのときは、全力でいい作品づくりに取り組みたいです。

取材協力:TAKAHASHI HIROKO BASE

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